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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

葛藤2


スジョンは大通りから裏道を抜けて、ふらつきながら歩き、やがて橋をゆっくり渡りだした。

車のライトがまぶしく行き交う中を、まるで夢遊病者のようにおぼつかない足下で歩いている。

やがてスジョンは立ち止まり、橋の下を流れる川をじっと見つめると、今にも身を投げるかのように見え

驚いたイヌクは慌ててスジョンに走り寄り、スジョンの腕をつかみ抱き寄せた。

その途端スジョンは、イヌクの腕の中で意識を失った。

イヌクは驚いてスジョンを抱き上げ、タクシーを停め自分の部屋へと連れて帰るのだった。

スジョンをベッドに寝かせると、イヌクはスジョンの乱れた髪を掻き上げた。

頬に残る涙のあとが、スジョンの苦悩をくっきりと映し出している。

スジョンを哀れとも思いながら、それでもスジョンのそばにいられるこのときを幸せに思うイヌクだった。

ベッドに眠るスジョンを、静かに・・・そして愛しそうに見守った。

(おまえのそばにいられたら、それで良い。このまま目を覚まさずにいてもかまわない。

泣いているおまえを見るくらいならいっそ、このまま記憶をなくしてくれればいいとさえ思うよ。

俺のことを忘れても良い・・・だから、あいつのことも忘れてくれ・・)


気がつけばイヌクの目にも涙が溢れ、スジョンの手を優しく握りながらイヌクはそう祈り続けた。


やがて空がうっすら明るくなってきた。

(朝よ・・来ないでくれ・・・このまま二人を闇のなかに隠し続けて欲しい)

いつ目覚めて立ち去るかわからないスジョンのことを思うと、心の中でそう繰り返し、願うばかりであった。


スジョンはジェミンが何度も「何処にも行くな」と叫んでいる夢を見ていた。

ジェミンの手を握ろうと懸命に手を伸ばすのに、どんどんジェミンの手が遠くなっていく。

やがて、「何処にも行くな・・・何処にも行くな」

と、いうジェミンの声だけ聞こえ、スジョンは両手を差しだし懸命にジェミンを探し回っていた。

そのとき、ジェミンの手を握れないように腕を掴まれてもがいた。

「放して・・・放して」

スジョンは自分のうわごとで、うっすらと目を覚ました。



すると、イヌクがスジョンの頬にながれる涙をそっと拭いていた。

「どうしてここに・・」

と、スジョンは一瞬何が起きていたのか思い出せなかった。

「気分はどうだ?」

慌てて立ち上がろうとしたスジョンは、ふらついてイヌクの胸に倒れ込んだ。

「もう少しここにいろ」

そのとき、昨夜の悪夢が紛れもない現実であったことを知った。

イヌクが倒れ込んだ スジョンを抱きかかえてベッドに戻そうとすると、スジョンが言った。

「その手を放して・・・もう、私はあなたとは同じ道は歩けないの。だけど、あなたが

私を許してくれないのなら、私はあの人とも別れるわ。それで良いでしょ」

イヌクの傷の深さを嫌と言うほど思い知らされたスジョンは、すべて自分

のせいだと責めていた。

「それで昨日はあんな事をしたのか?」

スジョンは、静かに目をつぶって答えた。

「それで、あなたの苦しみが消えるなら・・・それで、あの人を苦しめる

ことがなくなるのなら・・・いつでも、死ぬわ。すべての罪は、私にあるか

ら・・」

そう言うと、スジョンはふらつきながらイヌクの腕を静かに振り払い、ゆっく

りと離れていった。

見るからに疲れ切っているスジョンのやつれた頬が、朝の光の中でいっそ

う青白く浮かび上がった。そのやつれた顔が、イヌクの胸を締め付けた。

長く苦しい一夜だった。

「おまえの幸せを願っていたよ・・・ずっと。だが、おまえが不幸であって

欲しいとも思った。どこかで俺に助けを求めて泣いてはいないだろうか・・・

おまえの姿を探し求めたこともあった・・。」

思わずスジョンは立ち止まった。

「それが罪か?愛する女をこの手に抱きたいと思うことが罪なのか?愛し

てくれとは言ってない。せめて、あいつのいない時間だけでも、俺のそば

にいて欲しい。」

「さようなら」

「帰れるものなら帰れ。あいつの会社がどうなっても良いのなら・・。」

ドアのノブに手をかけたスジョンが凍り付いた。


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